執筆者 弁護士 友弘克幸(西宮原法律事務所)
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退職金とは
退職金制度を設けている会社では、「就業規則」や「退職金規程」で、退職金の支給要件(勤続年数など)、支給金額・計算式や支払時期などが定められているのが通常です。
懲戒解雇された場合には退職金は支給しない(あるいは支給額を減らす)、などと定められていることもよくあります。
また、例外的な事態ではありますが、会社の経営状況が悪化した場合などに、退職金規程の内容そのものが変更されるケースもあります。
退職金は、在職期間中の功労に報いる目的で支払う金銭であり、労働の対価である賃金(給料)の後払いという性格を持っています。
すでに退職金を受領済みの場合
すでに受領済みの退職金については、預貯金なり現金に姿を変えているわけですから、財産分与の対象となることについて異論はありません。
将来の退職金は財産分与の対象となるか
問題は、まだ退職していない場合に、将来の退職金が財産分与の対象となるのかどうかです。
かつては、受給できるかどうかが不確実であることを理由に、将来の退職金は財産分与の対象とはしないという考え方がありました。古い裁判例にはそのような立場をとったものもあります(長野地裁昭和32年12月4日判決など)。
しかし、その後、「将来支給される蓋然性(がいぜんせい)が高い」場合には、財産分与の対象とすべきであるという裁判例が現れるようになりました(東京地裁平成11年9月3日判決・判例タイムズ1014号239頁、東京高等裁判所平成10年3月13日決定・家裁月報50巻11号81頁など)。これらの裁判例では、①勤務先の企業規模や経営状況、②定年退職までの期間などを総合考慮して、「将来支給される蓋然性が高い」と言えるかどうかが判断されています。
さらに最近では、「支給される蓋然性」をそれほど厳格に要求することなく、例えば定年退職がかなり先のことであっても、退職金は財産分与の対象とするべきだという考え方も有力になってきているようです。
将来の退職金を財産分与の対象とした場合の評価
将来の退職金を財産分与の対象とすることを肯定するとしても、その金額を現時点でどのように計算すればよいのか、ということは問題となります。
いくつかの考え方がありますが、最近、家庭裁判所の調停などで比較的広く用いられていると言われているのは、財産分与の基準時(原則として別居時。別居していない場合は離婚時)に自己都合退職した場合の退職金額を、全稼働期間と同居期間で按分するという計算方法です。
計算式で示すと、「基準時に自己都合退職した場合の退職金額 ×(同居期間/全稼働期間)」となります。
退職金の分与時期
将来の退職金については、これを財産分与の対象に含めることとして、現時点での金額を計算したとしても、実際にはまだ受け取っていないわけですから、分与をする側の義務者に十分な資力(現預金)がないと、一括で支払うことが難しいという場合があります。
このような場合には、よく話し合って、現実的な方法を取り決める必要があるでしょう。場合によっては、分割での支払いにするという方法も考えられます。
なお、裁判例の中には、将来の退職金の財産分与について、現時点で自己都合退職した場合の額を対象額としつつ、支払い時期については将来実際に退職するときと定めた事例もあります(広島高等裁判所平成19年4月17日家裁月報59巻11号162頁)。
まとめ
未支給の退職金を財産分与でどのように取り扱うかについては、いくつかの考え方があり、また、分与義務者に支払い能力がない場合の対応も考えなければならないため、非常に難しい問題です。
財産分与について疑問や不安がある場合には、専門家である弁護士にご相談いただくことをおすすめします。